ソラネコの何か(仮)

徒然電脳妄想ブログ

波動砲 - 禁断の魔術

なんちゃってイラストレーター、彷徨えるトランスジェンダー、ソラネコです、こんにちわ、初めての人は初めまして…。

前回に続いて宇宙戦艦ヤマトの世界に突入することにする。以下の論述は、宇宙戦艦ヤマトという夢から続いているものである

 

第5話『浮遊大陸脱出!!危機を呼ぶ波動砲!!』において、ヤマトは浮遊大陸のガミラス基地を叩くため、波動砲を使う。だが、結果として、それはガミラス基地のみならず浮遊大陸そのものを消し飛ばしてしまう。沖田は言う。「使用を誤ると大変な破壊武器となってしまう」と。

第7話『ヤマト沈没!!運命の要塞攻略戦!!』の中で、「波動砲は用意しないのですか?」と質問する真田技師長に対し、沖田は「波動砲は使えんよ」と応える。更に彼は「冥王星には原住生物がいるのだ」と言っている。どんなに原始的だろうと、仮に冥王星に生命体が存在するとしたら、冥王星は彼らのものであり、地球人には冥王星を勝手にどうこうする権利も資格もない。波動砲を使えば、確かに手っ取り早く冥王星基地を叩くことができるだろうが、それと同時に冥王星そのものを消し飛ばしてしまいかねない。

冥王星に原住生物がいるにも関わらず、地球を救うためと称して波動砲冥王星を破壊したとしたら、ガミラス民族を移住させるためと称して地球に遊星爆弾を落としたガミラスと変わらなくなってしまう。破壊するつもりはなかったと言い訳してみても始まらないし、そもそも言い訳は弱者のすることだ。ヤマトはイスカンダルによって試されているのである。いざイスカンダルに着いてみると、「期待を裏切るようなことをしましたね?」などと言われて放射能除去装置を渡してもらえない可能性もゼロではない。ならば、自らその資格を捨てるような行為は戒めるべきだろう。

ヤマトが波動砲を使ったのは、全26話を通じて5回。それもゲールに操られた大型バラノドンに向けて発射した以外は「浮遊大陸」「炎」「人工太陽」「火山脈」と、すべて「モノ」に向かって発射している。ガミラス艦、あるいはガミラス艦隊に対しては1度も発射していない。何故ならヤマトの主たる目的が、イスカンダルへ行き放射能除去装置を受け取ることであって、ガミラスと戦うことではないからだ。しかも初回の浮遊大陸を除いて、他に方法がないというような危機的状況でのみ波動砲が使われている。少なくともヤマトは浮遊大陸を別にすれば、波動砲をあくまでも危機的状況を切り抜けるための道具として使用し、いわゆる武器としては使用していない。

世界で唯一原爆を投下された日本。被曝による後遺症は親から子へ、そして子から孫へと伝えられ、未だに多くの人たちが苦しんでいる。原爆を投下されたらどうなるか知っている日本。その日本に日本人として生まれた者が、大量殺戮破壊兵器の使用を良しとするようなことがあってはならない。

 

さて、波動砲を超科学兵器ではなく、最強の攻撃魔法と考えてみよう。この科学技術の時代に魔法の話を持ち出してみても始まらないと思う人がいるかもしれないが、魔法を「思わしくない事態を自分の思っているとおりにする技」と考えると、科学技術に通じるものが見えてくる。

その昔、人間は空を飛ぶことはできなかった。もちろん、今でも自力では飛べないのだが、科学技術の力を使って飛行機を飛ばすことができるし、かつては神々の住まう所と考えられた宇宙にまで進出しつつある。無線装置や電話を使って地球の裏側にいる人と、ほぼリアルタイムで会話できるようにもなった。山を削り取ったり、湖を消したり、地球の環境すら変えつつある。古代人から見たら、現代人は魔法使いの種族に見えるかもしれない。古代人たちが魔法使いの技として夢見ていたことを、現代人は科学の力を使って実現しつつある。

ゲド戦記』の主人公である少年ハイタカ=ゲドは、師匠のオジオンが、なかなか魔法を使わないことを不思議に思う。ところが、ゲド本人も老いてアースシー最強の大魔法使い、大賢者と呼ばれるようになると、なかなか魔法を使わず、共に旅をすることになったアレンを不思議がらせる。『指輪物語』に登場するガンダルフは「中つ国」最高と登場人物も読者も認めるほどの魔法使いなのだが、彼もなかなか魔法を使わない。彼らが本気になれば、目の前の「思わしくない事態」を思い通りにすることなど造作もないはずである―にも関わらず魔法を使わない。使えないのではない。彼らは敢えて使わないのである。何故、彼らは積極的に魔法を使おうとしないのだろうか。

ゲド戦記』に出てくる魔法学院の長老は言う。「ロークの雨がオスキルの旱魃を引き起こすことになるかもしれぬ。そして、東海域に穏やかな天気をもたらせば、それと気づかず西海域に嵐と破壊を呼ぶことにもなりかねないのだ」と。

ファンタジー世界に限定する必要はない。似たようなことは現実の世界でも起こっているのだ。長崎県の諫早湾の奥を堤防で閉め切った国営干拓事業が完成した代わりに、養殖のカキやアサリの大量死など漁業被害が発生―などというように。

若者は早く結果を出したくて、性急に物事を運ぼうとするが、世界を俯瞰して全体のバランスや、後世への影響に気を配ることも大切なことだ。特に大いなる力を持つ者は絶対にそのことを忘れてはならない。

仏教の経典に、こんなエピソードがある。釈尊は布教を始めるにあたって、最も大きな教団の1つを率いていたカーシャパ3兄弟をターゲットとする。彼はカーシャパの屋敷に寝場所を借りるのだが、彼が泊まった部屋には龍が住み着いていて、夜半に襲い掛かってくる。ところが、釈尊は慌てず神通力を用いて龍を調伏してしまう。仏典に説かれる物語は伝説化しているとはいえ、釈尊が布教の初期には神通力、超能力を使ったらしいことが伺われる。だが、布教が波に乗ってくると、一転して弟子たちに神通力の使用を禁じるようになる。何故、彼は禁じたのか。

釈尊が神通力を使えるのは長期に渡る修行の結果であって、目的ではない。神通力を使うだけなら鬼神どころか低級の妖怪にもできることだ。彼は修行の浅い弟子たちが神通力に頼るあまり、それに振り回され、修行が疎かになってしまうことを警告しているのである。しかし彼が最も恐れたのは、弟子たちが神通力を使えることを鼻にかけることにより、慢心にとらわれ仏道を求める心を失ってしまうことだったのだ。

スターウォーズ』のアナキンがヴェーダーとなり銀河を恐怖に陥れたのも、元は言えばアナキンの慢心が原因だ。

慢心というものは、気が付かない間に巨大化し、しかも自分ではなかなかその正体に気が付くことができない、とても恐ろしい魔物なのである。芽を出した瞬間に叩き潰さなければ、バオバブの木が大きくなりすぎて、切るに切れなくなってしまった星の王子様の隣人のように手遅れなってしまう。

『2199』において「波動砲を使えば冥王星そのものを破壊してしまいかねない」と言った進に対して、南部砲雷長は「いいじゃないか、星の1つや2つ」と応えているわけだが、彼の言葉を慢心と呼ばずして何と言えばいいのかボクには判らない。

 

現実には冥王星程度の天体が消滅したところで、地球に大した影響は無さそうだが、長期的に見た場合、彗星の巣にそれなりの影響を与える可能性はゼロと言い切ることはできないだろう。そうでなくとも、地球人が自ら冥王星を破壊したとなれば、後世の天文学者や星好きな子供たちが寂しい思いをするに違いない。『元祖無印版』で沖田が「太陽系の共有財産を破壊することは許されない」と言っているが、まさしくそのとおりである。たとえ冥王星に生命体が存在しなかったとしても、冥王星を破壊して良い理由にはならない。

―というわけで、See You Next Talk!